災害復旧_建設職人サムネイル_第1回_

【第1回】台風が発生したら、どのくらいの職人が必要になるのか

本連載では、一部損壊家屋の復旧における初の官民連携事例として当社が取り組んだ「応急防水施工(ブルーシートの展張)による家屋補修の支援」事業の結果を分析します。

この分析を通じて、被災された方々が一刻も早く元の生活を取り戻すために何をすべきかを模索していきます。また、職人不足という社会課題を新たな切り口から見つめ直すことにも繋がればと考えています。

↓ 前回の記事はこちら ↓

前提①:研究対象

千葉県、特に南部においては、台風15号が襲来して4か月が経過した今でも、屋根がブルーシートで覆われた家屋が多くあります。
その背景にあるのは深刻な職人不足です。「すべての家屋の復旧が完了するまでには3年かかるのではないか」と予測する現地の方もいます。

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本連載において研究の対象とするのは、一連の被災家屋復旧の中でも最初に行われる屋根のブルーシート展張についてです。

当社が千葉県から委託を受けて実施した「応急防水施工(ブルーシートの展張)による家屋補修の支援」事業の結果を基に、職人不足の実情を探っていきます。

前提②:研究の土台となる事業概要および研究方針

「応急防水施工(ブルーシートの展張)による家屋補修の支援」事業のスキームや結果は、事業報告書をご参照ください。

ポイントは2点です。
①県外職人の県内への赴任交通費および宿泊費は、千葉県が負担することで、県外職人を県内職人と同条件にした
②ブルーシートを張る工事費および材料費は、展張希望者が負担

本事業のスキームには特殊な点も多くありましたが、その中から、復旧プロセスにおける建設職人の役割について一般化できるポイントのみ抽出して考察を進めていきます。

問い:屋根が損傷した家屋1軒にブルーシートを展張するために、何人日の職人が必要か?

当然ですが、台風の規模や上陸した地域によって、被害の状況は全く異なります。そこで今回は、「被災家屋1軒あたり何人×何日の職人が必要か?」という問いにフォーカスします。

展張工事に要する時間は1軒あたり2時間強

本事業において、ブルーシート展張に要した展張工事の時間は、平均2時間15分でした(被害の大きさや屋根自体の大きさによって所要時間に若干の差はあるものの、中央値も2時間と、ほとんど差がありませんでした)。

次に、職人の1日の動き方をより詳細に見てみましょう。

職人の稼働を可視化してみる

本事業では、2~3人からなる職人チームが複数組成され、現地を駆け回りました。ここでは、最も多く復旧工事にあたったチームに絞って、その1日の動きをチャートに示します。

第1回_改改

このチャートには、職人チームが動いた1日の軌跡が記されています。
例えば10/30を見てみると、

・9:00から11:00までの2時間で館山市の1軒目を展張
・11:00から12:00までの1時間で移動
・12:00から13:00までの1時間で鴨川市の2軒目を展張
・13:00から14:00までの1時間で移動
・14:00から16:30までの2時間半で鋸南町の3軒目を展張

と動いていることがわかります。

このチャートから、次の2つの制約要件が分かります。

制約①:屋根に登れるのは昼のあいだに限られる

まず、このチームは全日程において、工事を9:00から18:30までに完了しています(そして、他のチームも19:00までには工事を終了していました)。
つまり、屋根に登る危険を伴う工事である性質上、ブルーシート展張は昼のあいだにしか行えないことがわかります。

制約②:希望者の時間都合も考慮する必要がある

チャートの11/4を見てみましょう。まず9:00から10:30までの1時間半で千葉県の1軒目を展張したのち、次に鎌ヶ谷市で展張を開始したのは14:00と、3時間半の空きが生じています。

千葉市と鎌ヶ谷市は車で1時間ほどの距離なので、昼休みを考慮に入れても、これだけのブランクは発生しないでしょう。したがって、展張希望者の時間都合にあわせた結果と考えるのが妥当です。

最も効率的に回ったこのチームですら、これだけのブランクが発生することも珍しくない(同様に、11/15には、同じ市原市でありながら2軒の展張工事のあいだに2時間半のブランクがあります)ということは、この現象はある程度一般化して予期すべきもの、と考えられるでしょう。

結論:1軒の被災家屋にブルーシートを展張するには、1人日分の職人が必要

上記の検討を踏まえると、職人がいくら効果的に移動し、展張工事を行ったとしても、1軒の被災家屋にブルーシートを張るのに少なくとも1人日分の職人が必要である(※)、と言えそうです。
※ 34軒÷(2人×16日)=1.0625人日/軒

しかし、この算出さえも、いくつかの隠れた前提条件の上に成り立っています。

まず第一に、本事業の仕組みにもかかわることですが、職人チームは「確実に展張工事を行える」家屋しか回っていないことです。
本事業に参画した施工管理会社の多くは、現地調査班(展張工事前に現地に行って被害状況を把握し、見積を作成、希望者との契約を担う班。多くの場合1名)と展張工事班を分けていました。上に挙げたチームはすなわち、現地調査班によって工事契約が結ばれた家屋にしか行っていないため、現地に行ったのに工事ができない、という事態に遭うことはありませんでした。

現地調査班と展張工事班とが一緒に回る場合は、事情が変わります。一度現地に3人で行ったとしても、あまりに屋根の損傷がひどいのでブルーシートの展張さえできないケースや、価格感が合わずに希望者から断られるケースもあります。現地に行ってからキャンセルが発生した場合、職人リソースは大幅にロスが生じてしまうのです。

次回:台風が来てからブルーシートが展張されるまでの猶予は何日間?

しかしながら、現地調査班と展張工事班を分けることには当然デメリットもあります。「いくらかかっても良いのでとにかくブルーシートを張ってほしい」と考えている希望者の方にとっては当然、二度手間になってしまいます。
そこで次回は、「どうすればより早くより多くの家屋を復旧できるのか」という一貫した観点から、現地調査班と展張工事班は一緒に回るべきか否かなどの方法論について検討します。

さらに、屋根が損傷することで雨漏りが発生し、家は内部まで蝕まれてしまいますが、そういった被害の広がりも踏まえつつ、「台風が来てからブルーシートが展張されるまでの猶予は何日なのか?」についても考察を進めます。

この記事を書いた人:田久保 彰太(ConTech総研)

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ConTech総研のTwitter: https://twitter.com/ConTechResearch

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